Answer Left 01 ラインアーク襲撃




暑い一日だった。

コジマ粒子による世界規模の汚染後、ラインアークに季節というものは失われて久しかった。 しかし今日は連日の日射もとりわけ強く、病的に照りつける太陽が"空"の繁栄を象徴しているようだった。

企業連と対立しているとはいえ、主戦力のネクストは市民の生活資金のために出張中、 水上都市の機能も正常、オールクリア。静かなものだ。

強いられ続けているこの状況を「異常なし」と言うべきか少し迷って、ラインアーク守備部隊の一人・マクミランは苦笑した。 彼は企業の独善的な支配体制と、それを確立させたネクストに嫌気が差し、 自らの意思で"空への招待状"を拒否した数少ない人間の一人。そしてかつて腕利きのレイヴンであったという経歴を買われ、 現在は第一線でラインアーク防衛の任に就いている。

窮屈な操縦席の中で、流れ落ちる汗が膨大な数の電子機器の光を反射して七色に光った。 例年、暑さは増してきている。そろそろ機内冷房も新しいものを−−。

「レーダーに反応。敵機接近中。繰り返す、レーダーに反応。」

昼下がりの平穏は突如として破られた。彼らにとって、最も聞きたくないアラームによって。

ラインアークの主力ネクスト、ホワイト・グリントの留守が狙われるというのも珍しいことではなかった。 一つ大きなため息をつき、機体を敵機方向に向ける。慣れた手つきで安全装置を弾いた。 国家解体戦争以前から幾重もの死線を潜り抜けてきた彼にとって、ノーマルの襲撃などなら軽い運動程度のもの。しかし…。

「敵影確認、ネクスト機。繰り返す、襲撃犯はカラード所属のネクスト機。」

背筋の凍る、とはこういうことをいうのだろう。彼自身、ネクストと相対するのは初めてだが、 今日という日まで生き延びてこれたのは、今までその機会がなかったおかげだろうという自覚もあった。 彼は瞬時に計器に目をやり、バズーカ、及びミサイルの弾数を確認した。フルに装填されているとはいえ、 一体ネクスト相手にはどれだけの量が要るのか。いや、その前に自分は、果たしてネクストを相手に…。
頭をめぐる不安が、悪態になって口を突く。

「企業のネクストだと!くそ、こんな時に限って!」

アラームから遅れて、彼の機体に搭載されたレーダーも敵を捉えた。示された位置はトンネルの向こう、 第6MT班を示す緑の点がすぐそばに…。
あるはずだった。彼が目を向けるのとほぼ同時に、緑色の仲間たちは世界から抜け落ちて消えていった。 まだ遠く、撃破音は聞こえてこない。しかし無音であることが逆に、 彼らが生きていたこと自体を否定しているように響いてしまう。ラインアークの防衛最前線を担当する、第6班。 MT戦力の中でも最優秀の面々を脳裏に描く前に、後方の第5班もがレーダーから姿を消した。

「くそ、効いているのか!」

10時方向、応戦中らしい第4班から無線が入る。

「プライマルアーマーだ!まずはプライマルアーマーを減衰させるんだ!」

隊長の返答が入る頃、彼は見た。トンネル出口付近の第2班・第1班から火の手が上がり、 MTの砲撃をものともせず滑り出てきた青い死神。

ネクスト。
プライマルアーマー、クイックブースト。
従来のアーマードコアを「ノーマル」に格下げし、企業の支配体制を確立した原動力。

−−なんだ。華奢な奴じゃないか。本当に強いのか?あんな…。

軽量機と呼ばれる部類のその機体がどれほどの脅威か解せなかったのは、彼が平常心を失っていたからに他ならないだろう。 心の表層ではそう思いながら、マクミランは実際、自分の腕が鋼のように硬くなっていくのを感じとっていた。 まるで自分の血が通ってないかのように、感覚のない腕は重く冷たく、ただ汗だけが操縦桿を伝って落ちる。

その汗が床に触れる頃、第1班は全滅した。

炎上するMT部隊の亡骸の中で、青い死神が向き直るのが見えた。

複眼の死神。

それがBFF製047AN02であるということは知る由もない。今ただ言えるのは、 この時既にマクミランは死神の視線に見初められていたということだけだ。
精神状態を考えれば、このタイミングで彼がバズーカを構えられたということ自体が奇跡に近い。 恐らくそれは理性ではなく、彼の長年のレイヴンとしての経験がそうさせたのだろう。 とっさに曲げた指の動きに合わせて、轟音とともに発射されたGA製大口径砲。しかし重鈍なバズーカは、 オーメル製フレームを主体とする機体相手にはあまりに遅すぎる。
聞いたことのない爆音、見たことのない閃光。次の瞬間には、奴はマクミランの視界から消えていた。 理解の及ばないクイックブースト。反射的にレーダーを見る彼の動きは、決して遅くはない。 むしろパイロットの反応速度だけを見れば、かのネクストを上回っていたかもしれない。皮肉なものだ。

レーダーは既に熔けていた。

密閉されていたはずの操縦席に、熱を含んだ風が吹きつけた。ここにきてようやくマクミランは、 機体−−そして自分自身の下半身が焼き切られているということに気がついた。レイヴンであった彼には、 それがレーザーブレードの爪痕であることまでは理解できた。

「ACアムリタ、大破。マクミラン大佐、おそらく死亡−−。」

壊れかけの無線機から、ノイズ混じりに自分の死亡を示す無線。マクミランは、どこか遠くの、 同姓同名の別人のことのように、今更何の意味もない無線を聞き流していた。

戦況被害を伝える味方無線は間もなく途絶え、そして二度と機能することはなかった。 ラインアーク防衛部隊は、今日という日に全滅を迎えた。うだるような陽の下、 静けさを取り戻したラインアークに再び通信回線が開く。その声に抑揚はなく、 容赦ないその戦いぶりを体現するかのように冷たく響いた。

「こちらネクスト・ミラージュ。全目標の排除を確認、作戦終了。」





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