Answer Left 02 スフィア侵攻部隊反転迎撃




極寒の大地。切り立った険しく高い崖の連続が、まるで神々の階段のような、雄大な山岳風景を築いているはずだ。 ――はず。今は、というより一年の殆どの期間、この地域は激しい雪に見舞われている。 吹き荒ぶ白い凍風は住まうものの体温だけでなく、視界をも大きく奪う。 その風はまるで死体の眼窩目掛けて急降下する禿鷹の羽音のようで、もしこの地域に生身で放り出されようものなら、 間違いなくその禿鷹の餌食となるだろう。
よくもまぁ、こんな場所にエネルギー施設を建設したものだ。いくつもの巨大なドームは、 この吹雪の中にうっすら不気味な影となって佇んでいる。

BFF社・コジマエネルギープラント、"スフィア"。

彼の請け負った作戦は、同施設に侵攻するオーメル部隊の排除。VOBによる超高速で部隊を背後から急襲、 追い抜いた後にVOBをパージして残敵を掃討するというものだ。
彼は考えていた。「下らない任務だ」と。クイーンズランスの件に懲りず、未だにBFFでは中央集権色が強い。 いくら彼がVOBなしの直接迎撃が可能だと言い張っても、上層部は耳を貸しはしなかったのだ。 彼――リンクス・シンは何よりも、上層部が自分に接近戦の真似事を強いるというのが気にいらなかった。 それも当然、かつてのシンはレイヴン、所属部隊は−−サイレント・アバランチ。

数トンの物体が音速を超えて飛んでいる。追加OB装置とは、Cugerもよくやったものだ。 禿鷹の羽音など物ともしない轟音をコックピットの外に感じながら、シンは改めて前方を見た。 無限の銀幕。高度計がなければ高さもわからないだろう。全方位、全高度が吹雪を塗りたくられている。

数分して、最初の敵影を確認。4機編隊の軍用ヘリ。これも彼を激しくいらつかせた。 何だってMTでも倒せるような相手を俺がわざわざ……。
ロック。距離1600弱。並のネクストでは感知すらできない距離だ。ましてやヘリなんて先時代の兵器なら尚更だろう。 超音速の風圧を裂くようにして、狙撃兵装の先端をターゲットに向ける。機体にリンクされた右手指を徐々に締め、引き金を"落とす"。

大雪原の凍風は銃声を飲み込み、かき消した。−−不幸なヘリの爆発音までも。

「インパクト。」

"命中"を示す戦術用語。今では聞く者もないが、これは彼がレイヴンであった頃からの口癖だ。

「第2射、第3射−−第4射。インパクト。」

意地かと聞かれれば、8割方そうだろう。サイレント・アバランチが接近戦を強いられるとは、なんという屈辱か。 かつては最強のノーマル部隊としてこの会社に無類の貢献をしてきたというのに、それが今になって強襲作戦とはどういうことだ。 この扱いはなんだ。そんなこと、自分の、オーバーロングレンジファイターの、そしてサイレント・アバランチの誇りにかけて許しはしない。 ありとあらゆる接近戦を軽蔑する彼が、この作戦でとる行動はただ一つ。
敵後方、超長距離からの殲滅作戦。すなわち、VOB以上の速度でこちらの撃破ラインを押し上げ、パージ・反転を待たずに敵機を全滅させる。

彼は一つため息をつくと、両の目と指に全神経を集中させた。出来ないはずがない。 その自信と覇気は、リンクされた乗機・シャウトアウトの金属的な表面からも迸る。

−−−−

「VOB使用限界、パージしまス。」

"オペレーター"の機械音声がコックピットに響く。その声は吹雪のせいか若干のノイズを含んだが、 機械の目さえも曇らせる極寒に引けを取らない冷たさだ。

このメッセージの理由はレーダーを見ればわかる。ネクスト屈指の補足距離を誇る彼のレーダー−−とは言え、 BFF社内に限れば平均的な範囲に収まるが−−は、既に作戦範囲のほとんどを"クリアに"表示していた。 一点の敵影もない円を見ることに、彼は疲れを感じていた。

「お疲れ様でス。作戦エリアに敵機なし、作戦完了でス。そのまま帰還して構いませン。」

「上に伝えておいてくれ。VOBは全くの無駄でした、とな。」

機械のオペレーターは仕事を正確にこなす代わりに、ジョークも愚痴も理解してはくれない。何のことはない、よくある独り言だ。
彼は大きく息を吐き出し、間近にそびえるドーム群を見上げた。ネクストよりもさらに巨大なそれは、 どことなく6脚のアームズフォートを思わせる。この"スフィア"も、恐らくBFFではなく、クーガーのアクチュエータ開発に利用されるのだろう。

巨大な、巨大なものたち。目に見えて悪くなっていく、リンクスの扱い。なにもBFFに限った話ではあるまい。これから我々は一体−−。

崖と高さを同じくする程のスフィアを背に、彼はまた一つため息を漏らした。





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