1章-6



 再び舞台は一登の家へと戻る。
 一登は不安に苛まれていた。あの夢を最初に見たのは二週間前だった。原因は勿論、あの夢だ。最初に見た時は単なる夢だと考えていたのだが、何かの封印が解けたかのように、あの夢の断片を毎日夢に見るようになってしまったのだ。
 大体は影を追う場面だった。しかし、時には死体の場面や後ろから肩を掴まれる場面もあった。そんな夢を見た翌朝はとても朝食を食べる気になれず、家族を心配させた。更に悪い事に、それらの夢は見るごとに現実味を一層帯びてきていた。
 何なんだ、これは。何なんだよ。やはり現実にあった事だったのか…?いや、そんな筈は無い。…まさか?予知夢じゃないだろうな。これから俺はあれを体験することになるのか?くそっ、何なんだよ、本当に。俺が何かしたのか、おい?
 考えれば考えるほど精神的に追い詰められていく。上から見下ろして俺を嘲笑う悪魔の声が聞こえる…。このままじゃ駄目だ。何とかしなくてはいけない。でもどうすれば良い。あれこれ考えたが全く解決策が思いつかない…。
 誰かに相談するか…?…香乃?あれは駄目だ。確かに頭は良いかもしれんが、あれに話したら碌な事にならない。散々首突っ込まれるは、よそに触れ回られるはで事態が悪化する事は確実だ。ならば、どうするか…。
 ふと一人の男の顔が浮かぶ。数少ない俺の友人、その中で香乃に頭で並び立てる唯一の人間…伊野康哉。そうか、アイツが居たな。自然と俺の手は受話器にのびていた。
 「もしもし、俺。西谷一登だけど…」

 30分後、一登はいつもの川縁に到着した。
 相談に乗ってほしい事がある、と言ってみたところ、急だったにもかかわらず康哉はこちらの頼みを快く承諾してくれた。それどころか、
 「早い方が良いだろ?なら、今から行くよ。」
 とまで言ってくれた。本当にアイツは良い奴だ。
 とはいえ、流石に家まで来てもらうのは気が引けたので、この川縁を提案した。どうやら向こうは近所だったようだが、こちらは電車なので余裕を持って一時間後とした。だから、まだ来ていないだろうと思っていた。
 と、後ろからポンと肩を叩かれる。
 「?」
 何事かと思い、振り向く。
 そこには好青年が一人立っていた。
 「よう、一登!久しぶりだな。」
 「あぁ、久しぶりだな。康哉。」



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