1章-7



 それからしばらくの間、俺と康哉は昔の思い出話に花を咲かせた。小学校で初めて出会った時のこと、中学での喧嘩、…。話しているうちに忘れていた思い出が次々に蘇り、夢中になって喋った。ふと気が付いた時には、辺りは大分暗くなりつつあった。
 「ん?そういえば、一登。お前が、俺に相談したいことがあるって言うから来たんじゃなかったか、俺?」
 ふと思い出したかのように康哉が言う。そして俺も今更ながらその事を思い出す。
 「あ…、あぁ、そうだった。お前の顔を見たら昔が懐かしくなってしまって忘れていたぜ。実はその事なんだが…。」
 俺は話した。二週間ほど前に、やけに現実味のある夢を見た事、それ以来同じ夢の断片にうなされている事、見る度に現実味が増す事、そして夢の反復からくる俺の底知れぬ不安。最初は軽く話をするつもりだったのだが、話し始めると不安の言葉が体の中からあふれ出すように出てきて、全て話し終わるまで止まらなくなってしまった。
 本当にコイツは凄い奴だと思う。一緒に居る時には気付かなかった。が、大学に入って分かった。コイツに話をしていると、何故だろうか、自然と安らげる。ただ話をしている、それだけなのに。コイツにだったら胸の内を打ち明けても良い、という気持ちになる。そして実際、打ち明けているうちに不安は消え去ってしまう。そんな奴は世の中を探してもそう居るものじゃないのだ。
 康哉は俺の話が済んでからも暫くは無言で考え込んでいた。まさか夢の話とは考えていなかったのだろう。戸惑いの表情が微かに見える。まぁ、それが普通の反応だろうと思う。自分でも馬鹿らしいと思う。だが、心の片隅から「いや、これはただの夢じゃない」という声が聞こえてくるのだ。康哉に話をしたことで少し冷静になって自分を見られるようになり、その事に気が付いた。
 「…そうだな。確かに恐ろしい夢だし、一登の不安は分かる。ただ、一般的な意見で説明を付ける事も出来るな。最初、お前はその夢を見て、強いインパクトを受けた。その事により、お前の記憶に夢は深く、深く刻まれる事となった。目が覚めてからもお前は夢の事を思い返した。それにより更に記憶に刻まれる。何か一点に集中して考えている時に、それに関係した夢を見ても不思議では無いだろう?現実味を増したこともそうだ。反復して同様の映像、夢を見る事により記憶は強化され、更に現実味を増してもおかしくない。」
 少し考え込んだ後に康哉はそう口にした。
 康哉の考えは確かに理に適っている。推論だから証拠が有る訳ではないが、少なくとも夢を鵜呑みにするよりは現実的な考えだ。それは分かる。だが、どうしても、どんなに理論的な指摘をされても、これが“夢”という言葉で片付ける事に対して抵抗を覚えてしまうのだ。どうしてなんだ…。単なる夢で片付けていれば、楽だと思うのに…。
 考えの循環に入りつつあった俺に康哉が更なる言葉を口にする。
 「と一応御託を並べてはみたが、お前は納得していないんだろう?それは顔に表れているし、こういう理論的な解答で納得できるのならば俺に相談する必要は無いからな。お前の中では、もうその夢は現実にあったものだという確信がある、そうだろ?」
 「あ、あぁ…。」
 「その予感、確信…。馬鹿馬鹿しいと切り捨てるのは簡単だ。が、俺は信じるよ、その予感を。」



txt by Num




小説