2章-3



 また、ここで時間を少しさかのぼろう。ほんの少し…、そう数時間ほど。
 一登が進展の無さに苛立ち悩んでいた頃、違う場所でも苛立ち悩んでいる人間が一人いた。一登の天敵、香乃である。
 香乃は、一か月ほど前に一登の相談の場に出くわしたものの内容を聞き損ねた後、何とかして内容を調べてやろうと二人をつけ狙っていた。が、どうも二人に感づかれているらしく、撒かれてどうにも情報が得られないでいたのだ。今日も、一登の家の近くで張っていたが、出てくる気配は無く、収穫ゼロの空気が立ち込め始めていた。
 「あぁ、もう!いっそのこと自宅に押しかけて強引に吐かせれば良かった…!」
 そう愚痴って、ふと一登の家から目を逸らすと、香乃は見覚えのあるような後ろ姿を発見した。
 「おっと…ラッキー♪今度こそは逃がさないわよ…康哉。」
 香乃はこっそりつけていった…。

 尾行開始からおよそ2時間。人影を追って電車を乗り継ぎ、香乃は見知らぬ街まで来ていた。香乃の住んでいる町とは比べ物にならないほど人が溢れ、ビルが立ち並んでいる。香乃はふと近くの案内板を見て、ここが日本の首都のど真ん中である事を知る。
 「こんな所にアイツ、何の用かしらね…。」
 香乃の確認する限り、康哉が今までこんな所まで来た事は無かった。撒かれていたから正確にそうで有るのかは分からない。だが、少なくとも普段の行動範囲から外れた場所である事は間違いない。だとするならば、わざわざ来るからには相当の理由がある筈…。香乃はそう確信していた。
 人影は人ごみに大分紛れており、時折見失いそうになりながらも香乃が尾行を続けていると、康哉は大通りにある一つのビルに入っていった。そのビルは高層ビル群の中にあって、一つだけ存在を恥じるかのように小さくぽつんと建っていた。香乃は、何が何でも情報を手にしようと思い、更なる追跡のためにそのビルへ向かおうとした。…とその時、後ろから声をかけられる。
 「おっ、香乃じゃないか。久しぶりだな。」
 「えっ?」
 思わず香乃は後ろを向く。そこには何と…康哉が立っていた。香乃がこの2時間追い続け、そして今ビルに入っていった筈の人間が。突然の事に香乃は驚きを隠せない。
 「えっ…何で…?だって…えぇ?!」



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